ランチェスター戦略というものはご存じでしょうか。
F・Wランチェスター (フレデリック・ウイリアム・ランチェスター)の「集中の法則」という著書に記された戦略が、のちに「ランチェスター戦略」として知られるようになりました。太平洋戦争や企業の経営戦略にも使われており現代ではフォルクスワーゲン、GM、ソフトバンクなどを含む多くの企業が、古くは紀元前の「孫氏」の時代から使われている廃れない勝負に勝つための理論です。
身近なビジネスシーンと結び付けながら説明します。
ちょっと長いですがサクサクっと読んでいただければどういう理論かわかり、仕事だけでなく日常で「苦戦」しているようなシーンの解決に応用可能です。
- ランチェスター戦略とは?兵力や武器のレベルで戦闘の結果を測定・予測可能とする理論
- ランチェスター戦略~フォルクスワーゲン、GM、ソフトバンク…現代のビジネスシーンや経営でも事例のある戦略論~
- ランチェスターの第一法則(一騎打ちの法則)武器が同じなら人数が戦闘の結果を決定づける
- ランチェスターの第二法則(確率戦の法則)近代兵器の登場により、さらに人数の優位性が高まる
- ランチェスター戦略「人数の差」はどう埋める?弱者の戦略「局地戦」に持ち込む
- ランチェスター戦略のビジネスでの活用。シェア「弱者」とは?
- ランチェスター戦略×営業戦略 営業チームや営業マン個人にも活かせる
- ランチェスター戦略の欠点・デメリットは?相手に使われた場合が厄介
- もっと詳しく知りたい方におススメの本は?
ランチェスター戦略とは?兵力や武器のレベルで戦闘の結果を測定・予測可能とする理論
自軍の兵力や武器の性能により攻撃力・被害が計算・測定可能とするもので「1対1」のような場面や、「多対多」のような場面で分けて考えられる。
という考え方です。
難しそうだけど、よく読むと兵力や武器で勝敗が決まるって当たり前じゃない?
この考えについて面白いのは「測定可能」であるということです。
特に、実際に式を入れて計算してみると面白いです。あとで記載します。
ランチェスター戦略~フォルクスワーゲン、GM、ソフトバンク…現代のビジネスシーンや経営でも事例のある戦略論~
第一次世界大戦の空中戦をランチェスターが分析している際に発見されたものです。
太平洋戦争や企業の経営戦略にも使われており、フォルクスワーゲン(ドイツ)、GM(アメリカ)、ソフトバンク(日本)なども実施しています。
フォルクスワーゲンについてはカナダ進出の際に、シェア40%とれる地域を優先的に攻めるという方針があったと言われており、この数字の算出根拠についてもランチェスター戦略で説明できるようです。
ここからはより具体的なランチェスターの法則について説明します。A国(10人)とB国(5人)が戦ったときの結果のシュミレーションです。
ランチェスターの第一法則(一騎打ちの法則)武器が同じなら人数が戦闘の結果を決定づける
まず通常の戦闘時は1対1になるような武器(刀)のようなものが想像されると思います。
シンプルにいうと、1対1の戦闘時の攻撃力(=被害度)は武器の強さ×人の多さで決まる。という式になります。
以下の数式にて示します。
ランチェスターの第1法則の数式
A-a=E×(B-b)
A(戦闘前のA国の人数),a(戦闘後のA国の人数),E(B国の武器性能/A国の武器性能)
B(戦闘前のB国の人数),b(戦闘後のB国の人数)
仮にEの武器の性能に差がない場合、A国10人 VS B国5人 の戦いではA国が5人生き残ります。
B国が互角に持ち込むには人数を2倍にするか、武器の強さを2倍にする方法があります。
ランチェスターの第二法則(確率戦の法則)近代兵器の登場により、さらに人数の優位性が高まる
戦争においても1対1の場面だけではなく、多対多を行う「機関銃」などの武器が出現してきます。「機関銃」は相手に向けて放ちますが、特定の一人を狙い撃ちするというより、敵の何割かを殺傷するモノになります。
よって、撃った結果ランダムに何人かが倒れている。という状況で、戦闘(一騎打ち)でどちらか倒れている状況とは異なるこの状況を確率戦をと言います。
ランチェスターの第2法則では確率戦における生存や攻撃力に注目しています。
結論的にはこの確率戦においても重要となってくるのは人数であり、2倍の人数は4倍の武器性能に匹敵するという結果を示します。以下数式を示しますが、算数が苦手な方には少し難しいかもしれませんのでジャンプしていただいて結構です。
確率戦においてはより人数が大事になるということをご記憶ください。
ランチェスターの第2法則の数式
A²-a²=E(B²-b²)
少し難しい数式ですが、E(武器の性能)に差がない場合
A²-a²=B²-b²となります。
Aが10人、Bが5人と考えると、100-a²=25-b²となり、
75=a²-b²
ここで、Aがbを全滅させると仮定すると、b=0となるので
75=A²となり8.66人が生存することになります。
確率戦による多対多の戦いでは5人のB国は何と、1~2人しか仕留められず全滅してしまいます。
では、武器の性能Eで人数に劣るB国に2倍の性能があった場合を見てみましょう。
A²-a²=E(B²-b²)
10²-a²=2(5²-b²)
100-a²=2(25-b²)
100- a²=50-2b²
ここでb=0 bが全滅を代入。
50= a²
A=7.07人が生存
で、あまり成果が変わっていないです。数の力を兵器の力で埋めることは難しいようです。
2倍の人数の差を埋めるためには2²の4倍の兵器の性能が必要です。
ランチェスター戦略「人数の差」はどう埋める?弱者の戦略「局地戦」に持ち込む
「ランチェスター戦略」において2倍の人数差がある場合ほぼ勝負にならないということがわかりました。
では先ほどのB国はただ全滅をするのを待つしかないのでしょうか。答えはYesでもありNoでもあります。
まず、人数差がある状態では勝てません。ちょっと極端な言い方になりますが、人数差の数字上のアドバンテージは説明しました。
例えば2倍の兵力をひっくり返すには4倍の性能の兵器が必要です。
どうでしょうか。直感的に難しいのではないのでしょうか。
例えばライバル会社が車で得意先に向かうスピードが平均60㎞/hだとしたら240㎞/hとか出さないといけなくなり、当然そんなスピードは出せません。
あるいは「4倍の商品力」なんかも難しそうです。
というかそんな商品があったらすでに負けてないでしょう。
現実的には4倍の兵器の性能を打ち出すのは難しいかもしれません。
そこで、打ち手としては「局地戦」を仕掛けるということになります。
重要なポイントに人数や力を集中させそのポイントで勝利することによりそのポイントから逆転を狙っていくのです。
ランチェスター戦略のビジネスでの活用。シェア「弱者」とは?
ランチェスターでは戦うものを「強者」と「弱者」に分けます。
「弱者」は2位以下を指します。
仮に売り上げ規模が大きかったり、接戦であってもある定義や市場の中で、2位以下はランチェスターの考え方では弱者と表現します。
これは1位である「強者」とは取るべき戦術が異なるからです。
ランチェスター「弱者の戦略」と「強者の戦略」を紹介
では低シェアの弱者が取るべき戦略とは?
一言で言うと「差別化」です。
強者は圧倒的にヒト・モノ・カネを持っています。
例えば大きな工場を持っている一流メーカーであったり、社員何千人という会社であったり、あるいはたくさんの顧客リストを持つ会社であったり。。
こういったトップの会社やライバルに対して正面から戦って勝てないということはランチェスターでなくても想像がつくかと思います。
よって、差別化を行い、勝てるポイントを探すことが大事です。
でも、相手は売り上げが10倍もあるし、優秀な営業マンも多くて、取り扱う商品も優れているのに、どうやっても差別化なんて難しいよ。。。
確かに難しそうですよね。「ランチェスター戦略」における「弱者の戦略」をどのように活用するかのヒントを紹介します。
ランチェスター「弱者の戦略」と「強者の戦略」を紹介
弱者がとるべき「差別化」について以下の6つが重要なようです。
差別化とは、全く違う価値提供をしたり、異なる客層を狙うことで、競争が生まれないところで勝利する、ということです。
Mission 理念・事業の定義(Missionどんなコンセプトか)
ランチェスター戦略 「弱者逆転」の法則 小さくても儲かる会社になる「勝ち方」 福永雅文 日本実業出版社
Market 市場・顧客層(Market誰に向けたものか)
Product 商品とサービス(Product商品の内容、デザイン)
Price 価格(Price価格)
Place 販路・地域(Placeチャネルやエリア)
Promotion 販促と営業(Promotion販売促進の方法)
マーケティングの4Pの考えを含みますが、まずは競争相手と異なる特徴がないと戦えないということが言えます。
こういったフレームに沿ってねらい目を考えても良いと思いますし、例えば、あなたが営業であれば「メールだけはとにかく早く返す」ということも立派な差別化戦略になり得ます。
また、戦術寄りではありますが戦闘に例えるなら相手が準備していないときに勝負をかける「奇襲」なども武器になり得ます。
強者の戦略に関しては人数や物資を最大限活かす戦略が良いでしょう。
基本的にゲリラ戦のような戦いに持ち込まれなければ負けないからです。
弱者がちょっと気になる動きをしていたら真似てしまうのも強者の戦略としてはあり得ます。同条件の戦いでは負けないのが強者の強みです。
シェアの目標は?ランチェスター戦略におけるシェアの意味合い
No1以外は弱者であるため、同じような戦略であると言いましたが、強者(トップシェア)についてはとにかくシェアが高ければ「強者」とひとくくりにしていいのでしょうか。
また、「強者」を目指す、「強者」になってからのシェアの目標などはどのくらいが妥当なのでしょうか。
①シェア6.8% 存在目標
まず、シェア7%程度は無いとその市場でトップを目指す競争に参加している扱いにはならないようです。トップを目指す競争をしたいのであればまずは7%のシェアを目標としましょう。
②シェア26.1% 強者としての下限目標
26.1%未満のシェアであれば、トップシェアであっても混戦ということになり、強者とは名乗れないレベルになります。強者となるための最低レベルの目標シェアです。
③シェア41.7% 安全圏
このくらいのシェアを持っていれば強者としての地位が確固たるものであると言えます。しかしながらライバルとの距離感などによっては安全でないケースもありますのであくまで目安です。
④シェア73.9% 独占
これは目指せるシェアの上限ということになります。世の中にはこれを上回るシェアや、エリアによって上回るシェア・趣向のようなものは有りますが、この数字を上回るとライバルが全く太刀打ちできず、競争が無くなります。
一見良いことのようですが競争が無くなることにより、開発や工夫が無くなってしまうということは市場の健全な発展を阻害するので、73.9%が健全なギリギリのラインと言えます。
競争・シェアの形にも注目 シェア理論を考える際の補足事項
同じシェア41.7%以上でも以下の二つのパターンでは接戦度が異なるので、採るべき戦略はおのずと変わってきます。
多数の中でなら「√3(ルート3=1.73」倍のシェア差が安全圏とみなされるようです。下の1社突出の場合はシェア差が42÷15=2.8倍なので1位は安全圏で独走している状態です。
競争・シェアの形にも注目 シェア理論を考える際の補足事項
先ほどの第2法則のような場面では約2倍の兵力に対しては非常に無力ということであり、「孫氏」や「ナポレオン」も大人数で少人数をたたく、こういった局面を作ることを兵法で述べている。
1対1なら3倍
ランチェスター戦略×営業戦略 営業チームや営業マン個人にも活かせる
ランチェスター戦略は営業シーンでも活かすことが出来ます。
例えば、あなたとライバル会社の営業の持っている武器(提案力)が同なら、「接触頻度」や「接触時間」を上げることでコミュニケーション量の差をつけることが出来ます。
また、営業組織を作る人の目線でいうと、重点的に攻略したい相手に対して、人員を多く配置するなどもランチェスターにのっとった戦略です。
ただ単に「得意先にたくさん会え」だけでは戦略的ではないですが、
「○○さんに昨年比2倍会うために無駄なことはやめる、人員を再配置する」
となると戦略的です。
ランチェスター戦略の欠点・デメリットは?相手に使われた場合が厄介
たとえば、あなたが弱者(シェア2番手以下)であるということを相手の強者(トップシェア)が認識していて、かつランチェスターの戦略を使われるという場合はピンチに至ります。
いわゆる「横綱相撲」・「物量作戦」のような方法で、強者が「ヒト・モノ・カネ」を投下してきたり、あなたの戦術の真似をしてくると、不利になります。
しかしながら、このような勝負では分が悪いことは弱者側の宿命ですので、「勝てるポイントを探って1点集中で勝機を探す」という対策を続けるほかないと言えます。
もう一つは、あくまで図式化されたものなので、現実的には「敵の人数」や「兵器の威力」がわからない、測定不能であることなども挙げられると思います。
数値化が難しい場合は、仮説思考で考えることも必要になります。
このようにランチェスターは逆転の際に考えたい優れた理論ですが、実践で使うためには他の知識や情報とセットであることが必要です。
もっと詳しく知りたい方におススメの本は?
こちらの本がおススメです。
筆者の福永雅文さんはランチェスター戦略を人生の中心に据えようと決意されたという気合の入った方のようです。
ランチェスター戦略の説明に加え、ビジネスにおける事例や実践的に使えるようなワークシートもあり、おススメの一冊です。
こちらもおススメです。3時間と書いてありますが、早く読める人はもっと早く読み終わることが出来ると思います。大事な基本的なことはこの本を読めば理解できると思います。
最後は変化球でマンガです。
アメリカンフットボールのマンガですが、この漫画で主人公の所属する泥門デビルバッツが取っている戦略もまさに「差別化戦略」になります。力や環境に恵まれないものがどうやって対抗しているか、という目線で読むと面白いです。あと単純にマンガとしても面白いです。
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