九条の大罪 第13審 あらすじ ネタバレ注意
電話ボックスに延びる細い腕。老人の腕のようだ。
電話ボックスから娘の良子に電話をかけ、家に帰りたいと告げる老婆。
一般社団法人輝興儀(きこうぎ)で介護されているようだ。
娘の良子は、またそんなことをと冷たく、ストーブをひっくり返して火事になりかけたり、食べたものも覚えていないと続ける。
いまから迎えに行くと言うが、迎えの前に輝興儀(きこうぎ)の若い男2名が宇田川母を発見する。
丁寧な口調でライトバンに乗せるが、宇田川母は明らかに抵抗している。
介護施設に戻った宇田川母は両腕、腰を介護のベルトの様な物で縛られ、手も介護用品のようなものですっぽり覆われている。これでは何も自由がない状態だ。
「反省の間」と呼ばれるこの部屋で1週間の反省をさせられるようで、食べ物はレトルトカレーかカップラーメンだが、どちらにせよ冷えたものであるようだ。
嫌がる宇田川母に「胃ろうにするぞ」と脅しをかける若い男。
隣のベットで横になる岩井という老人は胃に流動食を流しこみ寝たきりの生活をしているようだ。
男たち2名は輝興儀(きこうぎ)の仕事は働き手にやさしいと満足しているようだ。前の介護施設では低賃金で介護理念についてうるさく、ミーティングが多く激務だったようだ。
社長の菅原は介護をビジネスと割り切っていて入居者を施設に囲い込むことで在宅に出向く必要もなくなり、入居者が死ぬまでつづくサブスクと同じビジネスモデルと言っているらしい
作り置きのカップ麺やレトルトカレーも暴利で売っているようだ。
2人の話はビジネスモデルのことから家守の父の話に。
最初は施設からよく逃げ出したが、最終的には言いなりになったらしい。
家守の遺族に訴えられそうだったと聞いたという一人の男に対し、菅原の理念にほれ込んで寄付をしたんだと返すもう一人の男。
テーブルをはさみ山城と向き合う九条。
家守の寄付に対し、金融機関に照会をかけたら遺言執行者の山城が全額を引き出していることが判明したと告げる。
法律に則って遺言を執行したという山城に対し、
家守繁典の相続代理人として遺言執行者の義務に基づき遺産目録と遺言書を開示するよう求めます。
ビックコミックスピリッツ 九条の大罪 第13審より
と告げる九条
つづく
九条の大罪 第13審 感想
完全に山城と対決することを決意した形に見える九条であるが、今回は輝興儀(きこうぎ)の中身についてが一番長く触れられたところだ。
介護施設に入居する老人はいるが、バスで迎えに来て夜は家に帰るようなタイプではなく、あくまで泊まりっぱなしというものを目指すのが輝興儀(きこうぎ)のようだ。
弱者を食い物にしている点が若干ウシジマくん18巻~で描かれたタコ部屋「誠愛の家」と重なる。
タコ部屋は社会的弱者であり、金銭的に苦しむ生活保護者、貧困者、犯罪者などが足元を見られていた。
いまのところウシジマくんの鰐戸三蔵のような目に見える形の暴力、狂気は感じないが、それでも「最終的に言いなりに」という表現からすると、入居者の中では比較的強い抵抗を示したであろう家守繁徳の身に起きたことはかなり壮絶だったのかもしれないと思うと気が重くなる。
目に見える形の暴力はないと言ったが、老人を胃ろうにしてしまったり、体力的に劣る老人を脅しながら冷めたカレーを出すなど、人を人とも扱わぬ行いについては非道というのに十分と言える。
今回菅原がビジネスとしての介護を説明していた。
正確には菅原の部下と思われる社員たちによる間接的な説明である。上記のような老人に対してお金をふんだくるような行為は一般的には褒められる行為ではない。
しかし、冒頭の宇田川良子が母に言っているように、良子からしても母の面倒を見切れないというところは現実に存在する。
そういったなかで大手企業が行っているように面倒な手間を省くことをお金にしていることや、面倒を負担している側の企業が、すべての人にマッチするような行き届いたサービスを行う必要があるのか。という観点は倫理的な抵抗を除けば一理あるように思える。
冷たいカレーやぬるいラーメンは単純に嫌がらせをしているわけでは無く、おそらく社員が「まとめて作る」「火傷にならないよう冷ます」といった合理性から編み出した作業であり、これについても倫理の問題をなくせばわからないでもない問題である。
僕たちの日常でも値段以上のサービス、過剰なサービス、不足しているサービスなどはいたるところにあり、それでもそのサービスを受けてしまうことは「格差」によるもので、例えば「情弱」という言葉に代表される「情報」の格差、今回の老人保護施設に代表される「体力」や「思考能力」の格差、あらゆる格差が不利な現状を断れなくする。
こういった問題を今回は明らかにしている点から、ただ単に宇田川母や胃ろうの岩井について、たんじゅんに可哀そうな人だ、ああはなりたくない、と言い切れず、ああいった姿は形を変えた「あらゆる弱者」に反映される現象を形にしたもので、ほとんどの読者が経験してきたことであり、今後経験しうることの抽象だと捉えている。
もうひとつ、老人ホームについて入居資格を調べていたところ、自立~要介護5という区別があるようで、これに習うと宇田川母や家守繁徳は脱走をできるくらい元気な状態であり、身体の健康状態的には十分健康な状態であったと思われる。
ただ、認知症であったりそういった診断はなくても日々の危なっかしい行為があったということは少なくとも宇田川母には認められたようだ。
家守重徳がどういった状態で輝興儀(きこうぎ)のお世話になったかは分からないが、少なくとも体力的には充分であったのではと思われる。
九条の大罪 第14審 の展開は?
九条と山城をめぐる争いが幕を開けそうである。
いくつかポイントはあるが、既に九条は山城のもとに遺産が渡ったことは把握している。
普通に考えると遺産を得るのに一役買っている菅原に1円の儲けもないのはおかしな話なのだが、引き出しが山城によって行われているだけで、その後何らかのメリットが菅原にあるものと思われる。
そもそも寄付のお金が全額弁護士に引き出されている状況というのがあまりにも異常な事態であるように見えるが、そのあたりは僕は専門家でないのでわからない。
ただ、今のところ山城に焦りは全く見えない。
前回の内容、流木の言いぶりからすると、山城はただ単に強欲な弁護士というわけでは無く、もともとは尊敬に値する人物であり、有能な人物だったようだ。
いっぽう九条が有能であるということも山城は承知しているわけで、どのような知的な激闘が繰り広げられるか楽しみである。
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